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日本インドネシア学会第41回研究大会 報告要旨


第1日  11月13日(土)

テーマ発表

【発表1】

 氏名  佐々木重次(前東京外国語大学)
 テーマ  「幾つかの新しいイラスト(図解文法)」
 要旨   近刊『インドネシア語の中庭 I 文法篇』の宣伝を兼ねて,「伝統文法、生成文法、機能文法、談話文法」ならぬ私のインドネシア語図解文法の中から,比較的新しく導入したイラスト: アンカーマーク; menolak vs bertolak; mengangkat vs berangkat; I Want You For U.S. Army;mendownload; termasuk (1-2) などを紹介させていただきます。

【発表2】

 氏名  長南一豪(獨協大学外国語学部)
 テーマ  「mau+受身の両義性について」
 要旨  インドネシア語のmau(ingin)+受身には、英語のwantとは異なり、「したい」と「されたい」の両義性がある。Polinsky and Potsdam(2008)は、これはmauが繰り上げ動詞であるためであるとしている。彼らの研究をふまえ、本発表では、(1)mauにはコントロールと繰り上げの2種類があること、(2)mauだけでなくbolehのような助動詞やmulaiのようなアスペクト動詞にもこの2種類があることを主張する。さらに、英語のwantに両義性がない理由や、英語とインドネシア語の助動詞のちがい等の問題について論じる。

【発表3】

 氏名  スリ・ブディ・レスタリ、内海敦子(明星大学)
 テーマ  「インドネシア語口語における ‘sama’の用法」
 要旨  本発表は、ジャカルタを中心として発達し、ジャワ島を含む広い範囲で用いられているインドネシア語の口語変種における ‘sama’の用法を記述し分析した結果を報告するものである。 ‘sama’は、元来形容詞的用法、または形容詞を修飾する副詞的用法をもち、「~と同じ」という意味で用いられる語であったが、現在の口語では前置詞として多用される。「~と同じ」という意味から容易に派生しうる共格の「~と一緒に (‘dengan’に対応)」だけでなく、与格の「~に対して(‘kepada’に対応)」用法があり、加えて受動態における「行為者(‘oleh’に対応)」を表す。本発表では、語彙的意味を持つ ‘sama’が前置詞として機能的意味を持つようになるにいたった意味の拡張のメカニズムについて述べる。

【発表4】

氏名  関昌也(前拓殖大学)
 テーマ  「私見構文論・動詞論」
 要旨  能動態・受動態なる概念はローマ時代のキリスト教ラテン語以来のものであり、キリスト教の原理からのものであった。それは動作者対象原理、一神教的思考性のものである。それ以前の印欧語の言葉遣いは中動態という。この中動態は日本語やインドネシア語との同一性が見られ、それは日本語の「詞の自他」の「自の詞」に概念的に該当する・この「自の詞」の背景は多神教社会の「自然との一体化」からのもであり、「神との一体化」のキリスト教概念の西洋語と対立する。

第2日  11月14日(日)

自由研究発表

【発表1】

 氏名  Edy Priyono(京都産業大学)
 テーマ  Sebuah Tinjauan atas Singkatan di Advertorial Kementerian RI
(インドネシア政府省庁による広報記事の中の略語についての一分析)
 要旨  近年のインドネシア語の広告には面白い現象がみられる。ユドヨノが大統領に就任した2004年以来、各省庁がしばしばマスメディアに広告記事をだすようになったのである。本論文ではこれらの広告、とりわけその中で使用される略語を分析し、その背景を明らかにするとともに、インドネシア政府がめざすインドネシアの将来像を探る。
たとえば、農業省(Kementerian Pertanian)の広告記事にはKUPS(kredit usaha pembibitan sapi牛の購入のための事業ローン)という略語が登場する。近年インドネシアでは牛肉の消費が増えているが、牛肉の大部分は輸入に依存しており、広告記事には、農業省がこの輸入を2013年までにゼロにするという目標をたて、KUPSを開始したことが書かれている。
住宅省(Kementerian Negara Perumahan Rakyat)はGN-PSR(gerakan nasional pembangunan sejuta rumah百万住居供給国家プロジェクト)を推進中である。住宅省の広告記事には、住宅省が低所得者層の百万家庭に住居を供給するためにこのプロジェクトに取り組んでいることが詳しく書かれている。
このように、各省庁の広告記事は、いかにインドネシア政府が国家の問題に取り組んでいるかを広報し、国民に対して政府のイメージを高めようとしていることがうかがえる。なお、資料は2005年から2010年のTEMPO誌から収集している。

【発表2】

 氏名  舟田京子(神田外語大学)
 テーマ  「マレーシアにおける独立前後のマレー語の立場」
 要旨  イギリス植民地政府下で教育制度の整った最初の師範学校であるスルタン・イドリス師範学校が1922年にタンジュン・マリムに開校された。しかしながら1900年から英語が公用語となっておりマレー語は地方語という立場に甘んじていた。
次第にナショナリズムの波が押し寄せ1950年代に入ると文学者団体ASAS50が中心となり、言語・文学会議を通しマレー語の地位向上に関心が傾けられるようになった。 時を同じくして言語出版局も誕生した。
UMNOの公約もあり、独立の際にはマレー語が国家独立の象徴として国語となった。
そして独立後はマレー人優先政策が実施されるようになった。

【発表3】

 氏名  野村 亨(慶應義塾大学総合政策学部)
 テーマ  「インドネシアの鉄道事情;現状と将来」(Perkembangan Kereta Api Indonesia;  Keadaan Pada Masa Kini dan Perspektifnya)
 要旨  1867年、中部ジャワ北岸の都市スマランとその郊外タングン間26kmにインドネシア最初の鉄道が開通した。これは我が国最初の鉄道、新橋・横浜間の鉄道 (1872年)より5年先輩にあたる。また多くのアジア諸国の鉄道が官営鉄道として国家の政策で建設が開始されたのに対してインドネシア最初の鉄道は「オランダ領東インド鉄道」(蘭印鉄道)という民間会社によって建設された。
一方オランダ領東インド政府自身の手による鉄道も首都バタフィア近郊を中心として建設され、以後ジャワ島各地に路線を伸ばしていった。オランダ領時代を通じて、ジャワ、スマトラおよびマドゥラ島各地に「鉄道」(spoorweg)よりも軽規格の「軌道」(tramweg)と称する私鉄がいくつも建設された。
これらの官営鉄道と私鉄は第二次世界大戦中の日本による軍事占領期間にすべて「陸輸総局」のもとに統合され、この体制が戦後の独立インドネシア共和国に継承された。
戦後、長らく「過去の遺物」として放置されてきたインドネシア鉄道は1999年に民営化されて「インドネシア鉄道株式会社」(PT. Kereta Api Indonesia Persero)が設立され、優等列車の増発、サービスの改善、軌道改良などが行われるようになった。また日本から中古車両の提供を受けて都市近郊鉄道のサービスも改善されつつある。これらの現状をこれまでに収集した資料等をもとに発表したい。

【発表4】

 氏名  大形里美(九州国際大学)
 テーマ  「『近代派』イスラム組織ムハマディヤーの伝統と現代インドネシア・イスラム社会」
 要旨  2012年で創立100周年を迎えるインドネシアを代表する近代派イスラム組織ムハマディヤーを取り上げ、その教義的な伝統と変化、そして現代インドネシア・イスラム社会における同組織の運動の特徴を考察する。報告では、特に近年のイスラム思想の多様化の中でムハマディヤー組織内部においても思想が多様化し、保守派とリベラル派の対立が生じている現状や、ムハマディヤーと外部の諸組織とのつながりについても考察したい。

【発表5】

 氏名  相武知里(南山大学大学院人間文化研究科)
 テーマ  「第二言語習得理論を応用したインドネシア語教材について」
 要旨  初級インドネシア語教材では従来、インドネシアにおいて想定される会話がモデル会話として多く取り上げられてきた。それらは、実際にインドネシアを訪れる学習者にとっては実用性があると考えることができる。しかし、インドネシアを訪れることのない学習者にとっては直接的に関係のある事柄ではなく、必ずしも実用性があるとは言い切れないだろう。本研究では後者型学習者のインドネシア語習得に配慮して、日本における「接触場面」を想定したモデル会話を、初級インドネシア語教材の中で取り上げることについて考えてみる。

以上