作者別: bendahara
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日本インドネシア学会第45回研究大会(2014年)
Simposium Himpunan Pengkaji Indonesia Seluruh Jepang (HPISJ) ke-45 (Tahun 2014)
発表要旨集
Ringkasan Makalah
<自由研究発表 Presentasi Penelitian Bebas>
- 原真由子
「バリ語山地方言における人称詞と呼称に見られる敬語表現」
(Bentuk hormat dialek bahasa Bali Aga dalam pronomina persona dan bentuk sapaan)
バリ語には大きく平地方言と山地方言が認められる。バリ語平地方言には、敬語体系が見られ、カーストを中心とする身分関係に基づいた敬語使用が行われる。それに対して、バリ語山地方言地域にはカーストが見られず、出自による身分の違いはないため、平地方言に見られるような体系的な敬語はなく、ある一定の関係においてのみ、人称詞や呼称で敬意表現が見られるだけである。しかし、山地方言が話されている社会はカーストの差が見られないとはいえ、全くの平等社会ではなく、人称詞や呼称によって示される敬意表現はそこで重要な役割を果たしている。これまで、このような意味における山地方言における“敬語”とその背景となる社会構造や親族関係について報告はない。
本発表では、山地方言地域の1つであるプダワ村の事例に基づき、山地方言の敬意表現がどのように示され、それがどのような背景に基づいているのかを明らかにしたい。
- Edy Priyono
“Sebuah Tinjauan atas Akronim & Singkatan dalam Pemilu 2014
(2014年の総選挙で使われた頭辞語と略語についての一分析)
2014年4月9日(水)に行われた総選挙のため、選挙管理委員会は新しい試みを行った。「Ayo Memilih!(さあ、選挙に行こう!)」と呼びかけるマスコットキャラクターを導入したのだ。Merah Putih(インドネシア国旗)をマントにしている白い箱のキャラクターの名前は“Si Kora” 。”Kora”はkotak suara(投票箱)の頭辞語である。
大統領選挙に立候補したPrabowoとJoko Widodo (Jokowi) の両陣営は副大統領候補と対で呼ばれた。”Pilihlah Prahara!(嵐を選びましょう!)”というキャンペーンをしたのはPrabowo陣営。”Prahara”は大統領候補のPrabowoの”Pra”と副大統領候補のHatta Rajasaの”Ha”と”Ra”でつくられた頭辞語である。一方Joko Widodo陣営は”JKW4P!”と呼びかけた。”JKW”はJokowiのことで、”4P”は”for Presiden”のこと。つまり、「Jokowiを大統領にしよう!」というキャンペーンである。ポスターでは”JKW4P”の後に”JK4WP(Jusuf Kalla for Wakil Presidenユスフ・カラを副大統領に!)”と続く。
選挙資金がゼロのJoko Widodoのため、”BARA JP(JPの熱く燃える火)”と呼ばれるボランティアの人々が活躍した。”BARA”はbarisan relawan の頭辞語、”JP”は”Jokowi for Presiden(ジョコウィを大統領に)の略である。
両陣営の逼迫した選挙が予想される中、選挙管理委員会は Si Kora に加えて ”BATAL GOLPUT!”というキャンペーンも行った。”GOLPUT”とはgolongan putih(棄権)の頭辞語で、「棄権をせずに投票に行こう!」と呼びかけたのだ。都市部の中流の人々に棄権する人が多いとされ、この人たちが投票に行くことが選挙の行方を左右すると考えられた。
大統領選挙の投票は7月9日(水)だったが、選挙結果の発表は7月22日。Joko Widodoの勝利が発表された。しかし、Prabowo陣営は裁判を要求。1か月後の8月21日に判決が出てやっとJoko Widodoの勝利が確定した。Joko Widodoを応援した弁護士のグループは”BAHU JP(JPの肩)”と呼ばれた。”BAHU”はbadan advokasi hukum(法的支援団体)の頭辞語、”JP”はJokowi Presiden(ジョコウィは大統領)の略である。
以上のように、インドネシアの選挙においては、新しい頭辞語や略語が氾濫し、選挙戦を加熱させた。本論文では、新しい頭辞語、略語の意味、背景、効果等について分析を試みる。
- アリ・アルタディ、長南一豪
「日本語とインドネシア語の終助詞について」
(Partikel Akhir Kalimat Bahasa Jepang dan Bahasa Indonesia)
日本語は「ね」「よ」などの終助詞が豊富である。インドネシア語にもya, lhoなどの終助詞が存在する。一見すると、「ね」「よ」はそれぞれya, lhoに対応するように思われるかもしれない。しかし、実は「ね」「よ」にはさまざまな用法があり、ya, lhoと訳すことのできるものはその一部にすぎない。「ね」「よ」の基本的な機能はそれぞれ「確認」「推論」であり、ya, lhoはそれぞれ「連帯」「気づかせ」であると考えられる。すなわち、日本語の終助詞は話し手中心であるが、インドネシア語の終助詞は聞き手中心であり、両言語は根本的に異なるタイプの言語であるといえる。
- 三宅良美
“Reconsidering discourse particles in colloquial Indonesian”
(口語インドネシア語のタグ助詞について)
口語インドネシア語にはdeh, dong, kan, kek, kok, lho, sih,tha, ya, yah, yuk,といった数多くの助詞が観察される。この論考は、そのうち最も頻度が高く使われるものに入り、また文の最初や最後にも現れるlho, とkokについて論じる。
Atmosumarto 1994, Errington 1985, Sneddon 2006のような以前の研究は、これらの助詞にはさほど重要な意味論的な機能はないとし、スピーカーの強調や感情を強調するのに使われているとしか説明していない。しかしながら、kok とlhoのように一見同じ機能をもっている二つの助詞があるのなら、なぜそれが使い分けられるのかについての説明がない。さらにまた、kokのような助詞が文の先にくるのと後にくるのでは機能がかなり異なることも説明されていない。たとえば、(1)のkok1は、理由を問う疑問詞の機能を持つのに対しkok2は否定の助動詞を強調している。(2)のKok3 では、aja ‘だけ‘ を強調、(3)のkok4は、juga ‘~も’を繰り返している。
(1) A: Kemarin, kok1 kamu ga datang?
yesterday kok you not come
‘Why didn’t you come?’
Kamu sakit, ya?
you sick, yes
‘You were sick, yeah?’
B: Nggak kok2
no kok
‘No.
(2) A: Uang aku segini aja kok3
money I like.this only kok
‘My money is only like this.’
(3) A: Dia anggota Club Motor ya?
he member club motor yes
‘He is a Motor Club member, yeah?’
B: Iya, aku juga kok4.
yes me also kok.’^
‘Yeah, me, too.’
本研究のデータは、映画やソシアルネットワークのメッセージからきている。この助詞の機能を調べるとともに、助詞の意味論的研究の重要さを主張したいと思う。
Cf. Sneddon, James Neil 2006 Colloquial Jakartan Indonesian. Pacific Linguistics 581.
involvement. As explained in examples (18) and (19) of Chapter IV,
5 大形里美
「インドネシアにおけるイスラム新興ビジネスの動態」
(Dinamika Bisnis Baru Islam di Indonesia)
本報告では、近年インドネシアで活況を呈しているイスラム新興ビジネスを取り上げ、その動態を明らかにする。イスラム新興ビジネスの担い手たちの多くが、1980年代、90年代にイスラム教徒としてのアイデンティティーに目覚めたものたちではあるが、彼らは必ずしも厳格なイスラム教義解釈をする者たちとは限らない。彼らの商品・サービスは「イスラム的」であることが期待されるとともに、消費者の多様なニーズに応えることも期待されている。
6 荒木亮
「ジルブッブ(jilboobs)言説の広まりからみるイスラームのオブジェクト化」
(Exploring the objectification of Islam through the spreading discourse of “jilboobs”)
ムスリム女性(ムスリマ)が頭髪や顔を覆うスカーフ(布)は、広くインドネシアではジルバッブ(jilbab)という呼び名で親しまれている。けれども、近年、ジルバッブを着用した女性の服装について、とりわけ首から下の部分である上着やズボンの生地や着用のしかたについて、イスラーム的な視点から議論される対象となっている。
本発表では、「シルブッブ(jilboobs)」という典型的にはバストを強調するような服装をしているムスリマを批判する言葉の流行現象を手がかりに、都市部の若者にとってのイスラームについて、すなわちイスラーム復興現象の顕在化と欧米近代的なライフスタイルの浸透との狭間で希求される「イスラーム的なるもの」のあり方についての検討を試みる。
7 Sri Budi Lestari
「佐賀県におけるハラール対応の実態調査」
(Survey terhadap Usaha Penyertifikasian Halal di Perfektur Saga)
2030年に世界人口の4人に1人がイスラム教徒になると予測されている.日本も近年イスラム教徒をターゲットとした巨大市場に注目し始めた.イスラム圏における商機に気づき,日本企業がハラール商品の輸出や製造に積極的に乗り出している.発表者が住んでいる佐賀県では有田焼の「ハラール磁器」認証取得を目指す取り組みや鯵を使ったハラール餃子の開発などの事例があり,地方においても海外のムスリム市場を狙う動きが盛んに見られる.
本発表は特に佐賀県のハラール市場を狙う取り組みの例(県や大手企業,中小企業など)を調べ,地方独特の取り組みに注目して詳細に報告する.さらに,佐賀県周辺在住のインドネシア人ムスリムを対象にハラールに関するアンケートおよび面接調査を行い,その結果を発表する.インドネシア人のムスリムが求めているハラールとは何か,彼らが実際に困っていることなどを,実態調査を通じて探る.ここ数年急速に脚光を浴びるようになったハラール市場ではあるが,主に外国から来る観光客がターゲットとされている中,国や地方自治体の取り組みと在日ムスリムのニーズとの間にギャップがあるかどうかや,具体的な課題が見えてくるのではないかと考える.
8 内海敦子
「北スラウェシ州の民話の分類」
(Klasifikasi Cerita Rakyat di Sulawesi Utara)
本発表では北スラウェシ州における民話について、おおまかにいくつかのタイプに分けて述べる。北スラウェシ州の民話は、現地の研究者が1970年代から1980年代にかけて採集した文献がある。また、子供向けの民話集も存在する。本発表では、これらに加え、発表者が独自に採集した民話テキストも考察対象とする。土地の由来を説くもの、幅広くアジアに分布しているもの、明らかにヨーロッパの影響が見られるものなどに分けて分析する。
9 山口裕子
「ブトン島チア・チア語へのハングル導入の社会、歴史的背景と行方」
(The Adoption of Hangul in Cia-Cia Language in Buton Island:
The Socio-Historical Background and the Future)
東南スラウェシ州ブトン島の一部の小学校では、2009年から韓国語のハングルを用いた地方語(チア・チア語)教育計画が実施されている。本発表では、言語学的な先行研究を概観した上で、この動向の歴史的社会的背景を、地方社会間の関係史、分権化が進む地方政治と地方語教育の現状、韓国における「ハングルの世界化」などの複数の視点から考察する。さらにグローバルな「危機言語の保存」というスキームに照らして計画の行方を展望する。
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第46回日本インドネシア学会大会発表要旨集
2015年11月14日
1 山口真佐夫 (YAMAGUCHI Masao) (摂南大学)
「マカッサル語、ブギス語再考」
Pertimbangan Kembali Bahasa Bugis dan Makassar
南スラウェシ語群に属するマカッサル語、ブギス語はオーストロネシア語群、マライ・ポリネシア語派、南スラウェシ語群に属する言語である。しかし現在、マカッサルはベントン、海岸コンジョ、高地コンジョ、マカッサル、スラヤルを含むグループの名称として、ブギスはブギス、チャンパラギアン、エンボラ、タマンを含むグループの名称としても用いられている。本研究は比較言語学に基づきブギス語、マカッサル語をどのように捉えるかを考察するものである。
2 原真由子 (HARA Mayuko) (大阪大学)
「バリ語–インドネシア語コード混在会話におけるバリ語のparticleが果たす機能」
Fungsi unsur particle bahasa Bali dalam percakapan campur-kode antara bahasa Bali dan bahasa Indonesia
バリ語とインドネシア語の二言語話者による、インドネシア語要素がより優勢である二言語のコード混在が認められる会話では、文の基本構成要素がインドネシア語で、文構成要素外のparticleがバリ語である例が多数見られる。本発表では、particleの要素がバリ語として現れることが、会話においてどのような機能・効果をもつのかを議論する。
3 Petrus Ari Santoso (ペトルス・アリ・サントソ)(慶應義塾大学)
“Pembelajaran aktif dalam kegiatan membaca (Active learning in reading activity)”
Banyak kali kegiatan membaca di kelas menjadi suatu pembelajaran yang pasif dimana pembelajar hanya membaca dan menjawab pertanyaan bacaan. Sebetulnya membaca adalah salah satu kegiatan yang dapat memberi pembelajar banyak manfaat dalam belajar dan berlatih Bahasa Indonesia. Di presentasi ini, saya akan berbagi beberapa aktivitas kelas dalam kegiatan membaca untuk tingkat dasar dan menengah. Aktivitas kelas tersebut melibatkan keterampilan bahasa lainnya di mana akan menjadikan pembelajaran aktif dan bermakna.
4 長南一豪、アリ・アルタディ (CHONAN Kazuhide, Ari Artadi)(ダルマプルサダ大学)
「インドネシアの大学の日本語学科における言語学科目指導法の開発と実践」
Perkembangan dan praktik pengajaran mata kuliah linguistik jurusan bahasa Jepang pada univesitas di Indonesia
大学の外国語学部の授業では、音韻論・形態論・統語論・意味論等の言語学科目が設置される。これらの科目は、たいてい非ネイティブ講師によって行われ、しかもその科目が専門ではないこともある。その結果、授業はすべて母語によって行われ、内容的にも生徒があまり興味を持てないものになってしまう。では、言語学を専門とするネイティブ講師が言語学科目を担当した場合、どのような指導が可能だろうか。本発表では、発表者が現在インドネシアの大学で行っている言語学科目の指導内容とその成果を報告する。
5 三宅良美 (MIYAKE Yoshimi) (秋田大学)
「インドネシア異文化体験ジョークのメタ・プラグマティクス
Meta-pragmatics of Indonesian jokes: when Indonesia meets West」
インドネシアの伝統演劇、テレビのショーにおいては、道化やジョークのシーンが極めて重要な位置を占める。インドネシア人との日常的なやりとりもジョークで溢れている。本論は、影絵芝居やヴィデオのショーで観察される、異文化体験が発端となる笑いを分析しようとするものである。
今日のお笑いのシーンでは、しばし、西洋人が現れジョークの対象となる。データは、8月中旬に3日間続けられた中部ジャワ・フェスティバル(Festival Lima Gunung)の最後の出し物、Wayang Kulitの演目Dewa Ruci のゴロゴロのシーンにおいて繰り広げられた、アメリカ人pesindhen とdhalang とのやり取りと、Sasaに代表される、一連のインドネシア文化紹介ヴィデオである。ダランと西洋人、そして、それを笑う観客との間の関係、および、主に西洋人の聴衆を対象にし、「“インドネシア人・インドネシア文化”とは何か?」を、インドネシア人に扮し、語り、演じるカナダ人女性Sasaのナラティブを分析し、言語ストラテジーのパターンを探り、なぜこのようなジョークが可能となるのかを論じる。また、このようなパターンが、なぜ日本人、アジア人、非西洋人を巡るジョークにはないのかをも考察したい。
ゲスト・スピーカー
John Bowden (東京外国語大AA研フェロー)
“ Toward a history of Indonesian slang “
In this paper, I attempt to sketch out a short history of Indonesian slang. By its nature, slang is often ephemeral and it is usually confined to spoken genres of language. For these reasons it can be hard to find records of older slang. Slang is often confined to particular subgroups within a society, and it is no coincidence that some of the first dictionaries of, for example, English slang consisted of the language of criminals and sailors. Slang often involves the use of ‘ludlings’ or word games in which the sounds of a word a manipulated in some way or other. In the Indonesian context, the first widely recorded type of slang was a variety called prokem which was the slang of preman or gangsters in the 1970s. Prokem had many neologisms, but it also had a productive ludling involving the insertion of –ok- after the onset of the first syllable and the deletion of any subsequent syllables, thus the name of the language prokem is derived from preman. Another prokem ludling which has survived into modern Jakarta slang is bokap from bapak. During the 1990’s bahasa prokem was taken up by students and other middle class Indonesians, enriched with more vocabulary, and more or less turned into bahasa gaul which is a kind of slang used widey nowadays by young ‘hip’ Indonesians in the capital and elsewhere.
Apart from prokem, one of the best-known subcultural ludling styles is found in bencong or ‘transvestite’ slang. Like prokem, the word bencong itself is derived via a ludling from the word banci as is e.g. rempong from repot ‘troublesome’. These days it appears that slang in Indonesian gets richer and richer. Some slang is borrowed from English, e.g. cekidot from ‘check it out’, and much slang is formed from a productive process of making singkatan or abbreviations. These usually are formed by taking a syllable from one word and a syllable from another to create a new word, e.g. bacol < bahan coli ‘material masturbate’ or perhaps more colloquially in English as ‘wank fodder’ to describe someone deemed rather attractive. Singkatan can also be formed from a mixture of Indonesian and English words, e.g ja’im from ‘jaga image’ which means literally ‘to look after one’s image’ but also entails that any person who is ja’im is probably hiding something about their real personality from the rest of the world by presenting only one side of themselves.
Many commentators on contemporary language in letters to the editor and the like maintain that the existence of such slang is a threat to the existence of Bahasa yang baik dan benar which we might think of as ‘good and proper Indonesian’. In this paper, I will argue that on the contrary, the richness of Indonesian slang actually attests to the huge success of the Indonesian national language program: slang is partly defined by its opposition to official language, and such a rich slang as found in Indonesian can only exist when there is a rich standard to depart from.
2015年11月15日
1 織田康孝 ( ODA Yasutaka) (立命館大学大学院文学研究科)
「日本軍政下のジャワ島における朝日新聞社の役割」
Peranan “The Asahi Shimbun” di Pulau Jawa pada masa pendudukan Jepang
日本軍政初期のジャワ島においては、第16軍軍政部が軍政を担当し、宣伝班が住民対策の指導権を握っていた。しかし、両者は、異なる統治構想を有したことから、現地の住民運動や独立運動指導者などをも巻き込みつつ対立していく。こうした両者の対立が現出したのが現地語新聞Asia Rayaの主導権争いであった。
本研究は、この問題において朝日新聞社が果たした役割に注目することで、同事件が軍政下のメディアや独立運動に与えた影響を検討するものである。
2 Ariestyani Wahyu Perwita Sari (アリエスティアニ・ワハユ・ペルウィタ・サリ)
(学習院大学大学院人文科学研究科)
「インドネシア語における『連結動詞』をめぐって」
Kata Kerja Beruntun dalam Bahasa Indonesia
インドネシア語では、日本語のV-V型複合動詞のように、ある動詞が連用形となり、他の動詞と結合し一つの動詞を形成することはないが、二つの動詞が接続詞を使わず、形態的な変化がなく、動詞の原形のまま用いられ、連続して現れることがある。例えば、「ジョンはメアリを撃ち殺した」をインドネシア語に「John menembak mati Mary」に訳することができる。「menembak mati」のようなV-Vの形は、連結動詞と呼んでおく。
本稿の目的は、インドネシア語の連結動詞の振舞いを明らかにすることである。インドネシア語の連結動詞の使用実態を調べるために、インドネシア語の小説を用いて、連結動詞のデータを収集し、分析する。その結果、生産的であるものと生産的ではないものがあることが明らかになった。生産的ではないものはV1とV2の動作主が同じか否かの観点から分類を試みる。
3 Tiwuk Ikhtiari (ティウク・イヒティアリ)(京都大学大学院人間・環境学研究科)
「インドネシア語におけるリンカー “yang” について」
Meninjau Kembali Kata Perangkai “yang” dalam Bahasa Indonesia
リンカー “yang” は、名詞とその属性・付加語を結びつける機能を持っている。”Yang” の使用は選択的と言われているが、その使用 “sepatu yang baru”、または不使用 “sepatu baru” 「新しい靴」は、自由変異であるというわけではない。リンカーによって結ばれる名詞とその付加語の現象は他のオーストロネシア語族の言語にもあると考えられているが、それらに関しての仮説と “yang” のそれとの間には違いが存在する。本発表では リンカー “yang” の用法を整理し考察するつもりである。
4 稲垣和也 (INAGAKI Kazuya) (京都大学)
「インドネシア語の所有構文」
Possessive constructions in Indonesian
本発表の目的は、インドネシア語における所有をあらわす表現を概観し、特に ada、dari、dengan/tanpa による所有構文について詳述することである。ada による所有表現は、(i)所有権の非主張、(ii) 無生物所有者の分離可能所有を表現し得る唯一の叙述所有構文である。dari による連体所有構造は、その使用にいくつかの動機づけがある。また、dengan/tanpa による連体所有構造について、所有物の種類という点から記述を試みる。